東京地方裁判所 昭和42年(ワ)2709号 判決 1969年1月20日
原告 高山周三
右訴訟代理人弁護士 山本卓平
右訴訟復代理人弁護士 加藤了
被告 宮田重夫
右訴訟代理人弁護士 小山勉
右訴訟復代理人弁護士 小玉聡明
同 渡辺重視
主文
被告は原告に対し金百万円およびこれに対する昭和四拾弐年参月参拾壱日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払うべし。
訴訟費用は被告の負担とす。
この判決は仮に執行することを得。
事実
≪省略≫
理由
≪証拠省略≫によれば原告が昭和三二年四月一〇日訴外会社と被告を債務者として右両名に対し百万円を返済期限の定なく貸付けた事実を認めることができる。被告は右百万円は訴外会社が原告に訴外会社の株式二千株を譲渡した代金である旨主張し、証人酒井秀吉の証言および被告本人尋問の結果のなかには被告の右主張に添う供述があるけれども、他方右両名の供述のなかには訴外会社が原告に譲渡したという株式に対応する株券を原告に交付していない旨の供述もあり、又甲第一号証の記載に照してみても、右百万円が株式の譲渡代金である旨の前記供述は信用し難い。而して他に右認定を覆すに足る証拠はない。而して本件百万円の金銭消費貸借は訴外会社のために商行為となるものと認められるので訴外会社と被告は連帯して右百万円の返済債務を負担したものである。そこで被告の抗弁について考察する。本件金銭消費貸借は訴外会社の商行為によって固って生じたものであるからこれによる原告の債権は五年の時効によって消滅するものである。ところで本件貸金契約においては返済期限の定めがないのであるから原告は相当の期間を定めて返還の催告をなした上その権利(返還請求権)を行使することができるのであるが貸付の時から相当期間を経過した時は、右の催告の有無に拘らず、その時から消滅時効が進行するものと解される。而して右の相当の期間は本件貸金契約を締結するに至った事情によって定まるべく、≪証拠省略≫によれば、本件貸金は原告と被告が親戚の間柄(原告の妻と被告の亡妻とは妹と姉の間柄である)であったところから被告の要請により被告が代表取締役をしている訴外会社の経営資金とするため原告が被告と訴外会社に貸付けたものであるところ訴外会社は昭和三二年七月一四、五日ごろ手形不渡を出して倒産した事実を認めることができ、これらの事実に鑑みて本件貸金における前記相当の期間は三ヶ月をもって妥当と考えられる。しからば本件貸金債権は昭和三二年七月一一日から消滅時効が進行し昭和三七年七月一〇日をもって時効が完成したものということができる。これにつき原告は、被告が昭和三九年一一月五日原告に対し本件貸金を返済することを確約し、もって時効の利益を放棄した旨主張するのでこの点について考察する。≪証拠省略≫を綜合すれば、昭和三九年一一月五日ごろ原告方において原告、原告の妻、被告、遠山弁護士、山本弁護士(原告訴訟代理人)が集って原告の妻や被告の子供の相続問題(原告の妻、被告の亡妻らの父指田峯吉を被相続人とする相続に関するもの)についての紛争処理について話合った際被告は原告に対し本件貸金百万円の債務を認めこれを右の相続問題解決の際に返済する旨を確約した事実を認めることができる。右は前記時効の利益を放棄する意志表示と解すべきである。原告の再抗弁はその理由あるものである。
以上説明したところにより明らかな如く原告の本訴請求はその理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 中田早苗)